建築で巡る美術館シリーズ-美術館へと転身を遂げた建築物のご紹介-
この美術館はアルザス地方、コルマールにある。ドイツ国境に近く、時にフランスに時にドイツに属すという時代に翻弄された地域であり、住民にはフランス語だけでなくドイツ語も堪能、アルザス独自のアルザス語も使いこなという人々も多い。
この建物はもともと、1230年に二人の貴族の未亡人が建てたウンターリンデン僧院という僧院であった。フランス革命後は閉鎖されていたが、1849年に美術館として利用されることになり、1853に開館した。
さて、ここで展示される作品はというと、グリューネヴァルトという画家の作品である。生年ははっきりしないが、1470-1475年頃にヴュルツブルク出身と推定され、1509年頃までにはマインツ大司教の宮廷画家に、1511年にはマインツ大司教治下のアシャッフェンブルク城の再建監督に任じられていたようだ。
この美術館の目玉である『イーゼンハイム祭壇画』は1511年‐1515年に制作されたと考えられている。かようにまだ謎多き人物であるが、なんと本名が明らかになったのは、20世紀になってからだという。「マティアス・グリューネヴァルト」と呼ばれるこの画家の本名はマティス・ゴートハルト・ナイトハルト(Mathis Gothart Neithart / Mathis Gothardt Neithardt)だと考えられているが、資料によっては「マティス・ゴートハルト・ニトハルト」とするものもあり、また「ナイトハルト」が本姓だが、画家本人は「ゴートハルト」を好んで使っていたという説もある。いずれにせよ「マティアス・グリューネヴァルト」は17世紀の著述家が誤って名付けたもので、以後21世紀に至るまで、これだけ注目を集めるようにもなったにもかかわらず、この画家は本名ではない「グリューネヴァルト」と呼称されている、というやはり不思議な画家なのである。
何ともこの不思議な画家の見事な宗教画が、かつての僧院に収められ、フランスの地方の美術館としては最も多くの来訪者が訪れる、という不思議な魅力に満ち溢れているところなのである。
アドレス; Place Unterlinden F-68000 Colmar
いつか本当の名前で呼ばれるますように度★★★☆☆
by France.fr
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