ビュッシュ・ド・ノエルを忘却の彼方に追いやるのが、新春を象徴する菓子、ガレット・デ・ロワ。パティシエが味や食感を大胆にアレンジしたものをフランス各地で楽しめます。アーモンドクリームのフランジパーヌを使ったもの、パイ生地のもの、三つ編みに焼いたブリオッシュ・トレッセを使ったもの、アーモンドやチョコレート、または柑橘類を入れたものなど、さまざまです。パリやプロヴァンス地方、ローヌ渓谷、オー・ド・フランス地方など、各地の創意に富んだガレット・デ・ロワをご紹介しましょう。
ピエール・エルメによるもっとも酸味の効いたガレット
パイ生地のサクサクした食感が楽しめる柑橘系風味のガレット・デ・ロワでパティシエのピエール・エルメPierre Herméは甘党たちをシシリア島の果樹園へと誘います。レモン入りアーモンドクリーム、グレープフルーツの皮の砂糖漬けが入っているのです。そして、この果樹園に植えられているのはフルーツだけではりません・・・。11のガレットの中には、陶製の金銀の番号付きマカロン型のフェーブが入っています。これはパリ造幣局によるフェーブコレクションで、王様と女王様を引き当てた人は金または銀のマカロンコインをもらうことができるのです。1月を、大人やグルメが宝物探しを楽しめる月とするのはいかが?
ピエール・ショヴェによるもっとも盛り沢山なガレット
フランスの北部ではガレット、南部ではブリオッシュ、であると言われていますが、それは本当なのでしょうか?ピエール・ショヴェPierre Chauvetは公現祭の日にフランスを二つに分断するようなことはしたくないと考えました。ショヴェの二つのブティックは、それぞれアルデッシュ地方のオブナAubenasと、ローヌ渓谷のヴァランスValenceにあり、まさしく境界線近くにあるのです。だから、二色のブリオッシュ・トレッセとローストしたヘーゼルナッツ入りアーモンドクリーム、そしてヘーゼルナッツのプラリネを使い、最後の仕上げにミルクチョコレートバーをトップに乗せた、創意に富んだこのシグネチャー・ガレットがあるのも当たり前。ダイエットを始めるのは(少しだけ)あとにすることにしませんか? この地方の味を堪能する旅を続けるのなら、アルデッシュ地方特産の栗の入ったアーモンドクリーム入りガレットや、自家製スプレッドもどうぞ。しかし、グルメ同志による別の(核心にせまる)議論を調停しなくてはなりませんが・・・。 ピエール・ショヴェ公式サイト
ルノートルによるもっとも巣篭もりに適したガレット
冬になると、暖炉の火のそばでホットチョコレートを飲んだり、雨や雪が降る様子を窓越しに眺めたりと、何時間も室内にいることがあります。ただし、それにはこのココアの香り豊かな飲み物のお供に、元気を引き出してくれるお菓子が必須。ルノートルのスイーツ部門の新しいシェフとなったエティエンヌ・ルロワEtienne Leroyが考案した解決方法は、カップの形をしたガレット・デ・ロワにチョコレートソースをかけ、アーモンドペーストで渦巻き状の装飾を施すというもの。芸術的で美味しい、騙し絵的なガレットで、アーモンドクリームとダークチョコレートをミックスしたものをキャラメリゼしたパイ生地に乗せてあり、サクサク感は保証済み! ルノートル公式サイト
ショコラ・セーブによるもっともリヨン的なガレット
リヨンでは、プラリネは地方特産のサラミソーセージやボージョレと肩を並べるほど人気があります。従って、赤くてサクサクした食感のアーモンドの粒入りガレットがあっても不思議ではありません。リシャール・セーヴRichard Sèveでは、ガレット作りに19世紀末に作られた本格的な銅製のタービンを用い、マダガスカル産のバニラビーンズを入れて作っています。今年のガレットには、渦巻き型の「S」の字が刻印代わりにデザインされています。最新の調理法が可能にしたイノベーションと言えるでしょう。自分の刻印をデザインしたオリジナルガレットをオーダーするのも、そう遠い日ではなさそうです。リヨンならでは!
ラデュレーの、もっともバスクらしいガレット
ガトー・バスクと、伝統的なガレットの中間にあるのがラデュレーのガレット・デ・ロワ。まろやかで、パイ生地のサクサク感もありつつクリーミー、とさまざまな食感と味わいが楽しめます。そこに、ピスタチオ入りアーモンドクリーム、ピスタチオのフレーク、そしてオレンジの花の香りがプラス。バランスがとれた元気のでるクリエーションはジュリアン・アルヴァレズJulien Alvarezの手によるもので、ラデュレーのフレグランスを彷彿させます。ラデュレーのガレットで、マカロン型、イスパハン型のフェーブを当てて、あなたのフェーブコレクションを充実させましょう。幸運を祈ります!
テール・ブランシュのもっともプロヴァンスらしいガレット
クリスマスに13種類のデザートを食べるのがプロヴァンスの伝統。しかし、その一つであるカリソンは、クリスマスだけではなく一年中食べられているものです。それをよく理解しているのがジェレミー・グレシエJérémie Gressierで、プロヴァンスとコート・ダジュールの中間、ヴァール県の後背地にあるテール・ブランシュ・ホテル・スパ・ゴルフ・リゾートTerre Blanche Hôtel Spa Golf Resortの新しいシェフ・パティシエです。この人気菓子カリソンからイメージを膨らませたガレット・デ・ロワを考案しました。バニラアーモンドとフランスのピレネー地域で栽培された柑橘類のマーマレードが、アーモンドクリームの入ったガレットに彩りを加えてくれます。100%プロファンス風のガレットをどうぞ!
フィリップ・コンテイチーニによるもっともフェミニストなガレット
さて、女性たちはの立場はどこに?フィリップ・コンティチーニPhilippe Conticiniは3年連続でネットメディアの「レ・ゼクレルーズLes Eclaireuses」とコラボレーションをし、ガレット・デ・ロワならぬ、ガレット・デ・レーヌ(クイーン)を提案しています。逆折込みパイ生地、ヘーゼルナッツパウダーの入った柔らかいアーモンドクリームフィリングなど、レシピは有名なパリのシェフパテイシエであるコンティチーニのものと殆ど同じ。ひとつだけ違うのは、円形のジャンドゥーヤ(焙煎したナッツ類のペーストとチョコレートをミックスしたもの)が入っていること。ヘーゼルナッツのアロマが口の中いっぱいに広がります。もう一つ違うことは、ガレットの中に隠されているフェーブに、「重要」、「不可欠」、「パワフル」、「本質的」、「必要不可欠」などフェミニスト的なメッセージが書かれていることです。身近な女性へのプレゼントに最適なエンゲージメントフェーブです。もちろん、自分へのご褒美にも!
メゾン・メエールのもっとも陽だまり的なガレット
ファサードが歴史的建造物に指定されており、フランスのみならず世界でも最も古いパティスリーとされる、ヴュー・リル地区のメゾン・メエールMaison Méertの厨房からは、夏の甘い香りが漂ってくるようです。菓子の殿堂でありながらクリエイティブで革新性に富んだメゾン・メエールが今年の公現祭に提案するのは、アプリコットのコンフィとアーモンド入りのビスケットをベースに、アーモンドクリームのフランジパーヌを添えるという、新しいガレット・デ・ロワ。風味のカクテルのようなガレットを食べれば陰鬱な冬も吹き飛びます。
メゾン・ヴェロのもっとも豚肉を味わえるガレット
辛党は、この異色のガレット・デ・ロワで(ようやく)リベンジを果たすことができるでしょう。メゾン・ヴェロMaison Vérotのガレットには、フランジパーヌもチョコレートも、ヘーゼルナッツも入っていません。その代わりにサクサクしたパイ生地に包まれているのは、ペルシュ産の豚肉の詰め物や鴨のフォワグラ。食欲を増進してくれる独創的なガレットです!
メゾン・デュ・ショコラのもっともカカオ感の高いガレット
チョコレート、レモン、ヘーゼルナッツ・・・それはソレイユ・デ・ロワと名付けたガレットで、冬に立ち向かい、グルメたちに英気を取り戻させるためにメゾン・デュ・ショコラLa Maison du Chocolatが提案するショック療法です。考案者は、M.O.F.(フランス国家最優秀職人章)の称号を持つニコラ・クロワゾーNicolas Cloiseau。3つの異なる風味を絶妙に組み合わせ、3段階で服用するという秘密の処方箋です。まずはレモンの皮のコンフィ入りのヘーゼルナッツクリームがとろける中心部。コクのあるブラックチョコレートのガナッシュも入っています。次にレモン果汁をビーズ状に固めたものが入ったキャラメルのパイ生地とダークガナッシュ。最後は、装飾代わりのチョコレート製王冠とローストしたヘーゼルナッツ。もちろん、処方は何回でも出せます・・・。
ペニンシュラ・パリのもっともタヒチ風なガレット
ガレット・デ・ロワとブリオッシュ・デ・ロワのどちらかを選ぶなんて、アンヌ・コリュブルAnne Coruble はそのようなことは望んでいません。公現祭を祝うにあたり、ペニンシュラ・パリPeninsula Parisでは食感と風味で遊び、アーモンドとタヒチ産のバニラが香る、サクサクでなめらかな口当たりを楽しむ王冠を提案。塩キャラメルのパイ生地は最高の味わいです。フェーブはペニンシュラホテルにならではのライオンをかたどったもので、王様や女王様に選ばれた人に幸せと幸運を運んできてくれるのを期待しましょう!
ロワイヤル・モンソーのもっともプラリネを感じさせるガレット
今年の「もっとも美味しそうなガレット」賞を、ロワイヤル・モンソー・ラッフルズ・パリRoyal Monceau Raffles Parisのシェフ・パティシエ、カンタン・ルシャQuentin Lechatが受賞したとしても、何の不思議もありません。アーモンドのプラリネとブラジル産のクルミが旅へと誘います。同じように、少々のラム酒とバニラの入ったフランジパーヌクリームが島の香りを思わせ、至福の味わいです。イズニーのバターを使った、よりクラシックな作り方の逆折込みパイ生地も絶品です。
by Bonnaud Kévin