調香師マーク・アントワンヌ・コルティキアートは、2002年に「パルファン・ダンピール(Parfum d'empire)」を設立しました。ラボの拠点パリですが、彼の目は常に南仏に向いています。その視線の先には、天然香料を仕入れるコート・ダジュール(la Côte d'Azur)のグラース市、そして彼の生まれ故郷であるコルシカ島があります。彼の最近の作品のうちの2つ、『コルシカ・フリオーザ(Corsica Furiosa)』と『タバ・タブー(Tabac tabou)』は、2015年と2016年にフレグランス界のオスカーであるFifiアワードで「ニッチブランドの最高の香り」に選ばれました。以下、インタビューです。
グラースの香水作り技術が、ユネスコの「人類の無形文化遺産」に登録され、その素晴らしさが世界的にも認められました。
マーク・アントワンヌ・コルティキアート(以下、M-A. C.) : 「グラースの街はユネスコの認定にふさわしい文化遺産だと思います。グラースには、歴史の深い香水会社がいくつもあって、香水に使用される原料植物の栽培と加工、そして香水製造の独自の伝統技術をもっています。類まれなこの文化遺産を未来に継承していこうと努力している全ての人々にとって、このように社会に認知されたことは大きな誇りです。」
グラースにはまだ現地産の花がありますか?
M-A. C. : 「ええ、もちろん。若い栽培家らが、センティフォリアローズ、ジャスミン、スミレ、アイリス、ユリ、チューベローズ、オレンジの花など、有名なグラースの花文化を復活させました。とはいえ、香水に使用される原料の多くが他の場所から来ているのは事実です。現在、グラースの各香水会社は、インド、モロッコ、エジプト、インドネシア、マダガスカルなど、世界中の何千ヘクタールもの畑を所有、経営しています。原料となる植物は、お香やミルラの樹脂、種子、ドライフラワーなどの輸送に耐えうる品種以外は、ほとんどは現場で加工されるのです。」
パリのラボで香水を作られるそうですが、あなたの仕事に対して、グラースはどのような役割を果たしているのですか? M-A. C. : 「とても重要な役割です。グラースには、天然香料の仕入れにおいては世界最高水準の香水会社が揃っています。彼らの持つ香料の種類の豊富さと言ったら!香水を作るためには、品質の高さは言うまでもなく、品質に一貫性があり、かつ再現性のある原料が必要なのです。グラースの香水会社はこれを可能にします。だからグラースは香水の聖地なのですよ!
あなたの香水は天然香料からのみ作られていますか
M-A. C. : 「いいえ、全てがそうというわけではありません。19世紀後半以来、コルシカ島のアジャクシオ出身のフランソワ・コティ(François Coty)によって開発された、いわゆる現代の香水は、植物または動物のエキスと合成香料を混合して作られます。合成香料は、メントールやバニリンのように自然界に見出されている化合物(「ネイチャーアイデンティカル」と呼ばれる)か、あるいは新しい香りを作るために化学者によって合成された化合物のどちらかです。調香師はみな、この合成香料を使って、多種多様な香りを生み出すのです。」
どのように香水を作るのですか? M-A. C. : 「香水を作るということは、例えるなら肌を舞台に物語を語るようなものです。創作をはじめるときは、私の人生での経験、個人的な出来事がきっかけとなることがよくあります。そういうときに頭の中に浮かんだ嗅覚と知覚の「譜」を、紙に落としこむ。そこから、単純な香料を用いて、香水に魂と骨格を与え、それらの調和を形作っていきます。そして、さらに何十もの香料を混ぜ加えていくのです。頭に浮かんだ交響曲のメロディを楽譜に落としていく音楽作曲家の営みに少し似ています。出来上がった香水の処方をコンピューターにインプットし、そして実験室でサンプルを作ります。」
この最初の処方から、その後何度も試作を繰り返すのですか? M-A. C.: 「ええ、何百回も!嗅いで香りを確かめるセッションのたびに、処方は修正されます。また嗅ぐ。そして比較する。そしてまた最初からやり直す。その繰り返しです。香水を作るにあたっては、その前過程でかなりの熟考を要するのです。そして、最終形にたどり着くためには、一人で、または他の人と一緒に、瓶の中で、皮膚の上で…膨大な量のテスト作業を行います。脳の専門家によると、日常的に鼻を使う人々、すなわち、ワイン醸造家や香水製造者は、非常に特殊な脳の力が発達しているそうですよ。」 調香師の植物離れが起こっているのでしょうか? M-A. C. : 「一部の調香師はそうでしょうね。でも私は違いますよ!2002年に「パルファン・ダンピール」を設立する前は、香水に使われる植物の分析と香りの抽出方法に特化した研究ラボで長く働いていましたし、アロマテラピーをかじったりもしていて、天然植物について私はとても詳しいんですよ。小さい頃から、私は植物の香りに惹かれ、愛し、感動する子どもだったのです。」
by Béchaux Stéphane