「プロヴァンス」という言葉が発せられるとすぐに、ラベンダーの香りとセミの鳴き声を背景に夏の空気が漂います。そこに搾りたてのオリーブオイルhuile d’oliveの香りが加わることもあるかもしれません。あるいは冬、サント・ヴィクトワール山に降る雪片の幻想的なイメージ neige sur la montagne Sainte-Victoireも。というのも、プロヴァンスProvence地方を訪れることは、ここにしかない人生の楽しみを四季折々に満喫することだからです。さらには「生活の美学(アール・ド・ヴィーヴル)」も。この美学は、都会や歴史ある町から手つかずの大自然や自然が薫る山々まで、プロヴァンスの風景のそこかしこで存在感を発揮しています。
プロヴァンス地方の旅の見どころ
地中海に面したマルセイユ
まずはマルセイユMarseilleへ向かいましょう。そして真っ先に、その160mの高みから町を見守っている「優しき聖母さま」こと、ノートル・ダム・ド・ラ・ガルド大聖堂Basilique Notre-Dame-de-la-Gardeへ赴きます。奉納物として吊るされた船の模型とモザイク画で飾られた聖堂の内部は必見です。外に出ればマルセイユ市街、海、MuCEM(ヨーロッパ・地中海文明博物館)がある錨地を見晴らす絶景が広がっています。古いサン・ジャン要塞Fort Saint-Jeanと新しいMuCEMの建物のあいだには遊歩橋が設けられています。遊歩橋は、地中海地域のさまざまな文明に橋を架けるというこのユニークな博物館の使命を象徴しています。
• サント・ヴィクトワール山の麓にあるエクス・アン・プロヴァンス
エクス・アン・プロヴァンスではおしゃれなブティックでのショッピングの合間に、古風な風格を漂わせた邸宅やエレガントなバロック様式の市庁舎など、「小ヴェルサイユ」の異名を持つこの町の豊かな建築遺産を堪能しましょう。そしてこの町出身の画家、セザンヌの足跡をたどって町を散策します。ローヴの丘にあるアトリエは見学可能です。近くにある広場は、セザンヌが80作以上描くこととなったサント・ヴィクトワール山Montagne Sainte Victoireを望むビュースポットとなっています。
• レ・ボー・ド・プロヴァンスとカリエール・ド・リュミエール
• アルピーユ山脈Alpillesにあるレ・ボー・ド・プロヴァンスLes Baux-de-Provenceはプロヴァンス地方の鷹の巣村の中でも屈指の美しさを誇ります。白い石灰岩に彫り込まれたようなこの小さな村には、石畳の小路沿いに古い城塞を始めとする20ほどの歴史的記念物が点在しています。近くにあるカリエール・ド・リュミエールCarrières de Lumières(光の石切り場)は没入型アート展を開催する必見の文化スペースです。
• 教皇の町、アヴィニヨン
次はアヴィニヨンAvignonを目指して平地へ向かいます。かつてヴァネサン伯領だったこの町は、教皇たちがつくり上げ、現在ユネスコの世界遺産に登録されているその見事な建築遺産をローヌ川の水面に映しています。建築遺産の精華となるのが教皇宮殿Palais des Papes。西洋最大のゴシック様式の宮殿で、14世紀に9人の教皇がここで暮らしました!かの有名なアヴィニヨン演劇祭は1947年、この教皇宮殿の前庭で産声をあげました。前庭を取り囲む25室が公開されており、礼拝室のフレスコ画や教皇の居住スペース(アパルトマン)などの見事な内装は見逃せません。
プロヴァンスの「生活の美学」
ブドウ畑がなかったら、プロヴァンスの「生活の美学(アール・ド・ヴィーヴル)」は一体どんなものになるのでしょう。深みのある赤ワインで評判の地中海の港町バンドルBandol からシャトー・デュ・パープ Châteauneuf-du-Papeといったコート・デュ・ローヌCôtes du Rhône Côtes du Rhôneの銘酒を生み出すヴォークリューズVaucluse県まで、ワインをキーワードにした旅のルートは無数にあります。ルートの途中にはワイン以外の楽しみ――オランジュOrangeの古代劇場théâtre antiqueでオペラを観て感動に心を揺さぶられる、カラフルな市場をめぐってプロヴァンスの香りに浸る、など――も揃っています。
壮観な自然
プロヴァンスの旅は比類のない大自然に包まれることをも意味します。車、徒歩、あるいはツール・ド・フランスの選手のように自転車でプロヴァンスの最高峰(1,911m)、ヴァントゥー山Mont Ventouxを登ったり、あるいは、エメラルドグリーンの水を湛えたヨーロッパ最大の峡谷、ヴェルドン峡谷 gorges du Verdonをめぐったりしてみましょう。野生の湿原が広がるカマルグCamargueで、ピンク色のフラミンゴに囲まれて白馬や雄牛が草を食む姿を眺めるのもおすすめです。
プロヴァンスの美味しいもの
プロヴァンスの人生の楽しみは、香り豊かな大地saveursから生まれた無数の郷土料理や名産品に映し出されています。フルーティなオリーブオイルはケーパーとオリーブを使ったタプナードtapenadeをつくるのに使われます。エルブ・ド・プロヴァンスherbes de Provenceは料理を香り高く仕上げます。マルセイユではこの町名物の魚のスープ、ブイヤーベースbouillabaisseを、マルティーグMartiguesでは“ご当地キャビア”のプタルグpoutargue(ボラや黒マグロの卵巣を塩漬けして乾燥したもの)を食べてみましょう。野菜も太陽を感じさせる料理をつくり上げています。カマルグ米を添えていただく美味しいラタトゥイユratatouille、バジルの香りが際立つスープ・オ・ピストゥsoupe au pistouなどがその例です。野菜はアンショワード’anchoïade(アンチョビ、ケーパー、ニンニクでつくるディップ)をつけて生で食べたり、茹でて鱈とともにアイオリaïoli(ニンニク入りマヨネーズ)を添えて食べられます。スイーツ系では、アプトApt名産のフリュイ・コンフィfruits confits(果物の砂糖漬け)や、アーモンドとオレンジの風味を効かせたカリソン・デクスCalissons d’Aixがおすすめです。